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2007/07/20
[時事]「視聴率」の透明度:煽情性競争よりも実用性競争を

執筆者: murata (8:36 pm)
北京のテレビ局がスクープした「段ボール入り肉まん」が、捏造だったと発表されました。「段ボール入り肉まん」の話題について日本のメディアは、自社の元北京特派員の体験談を語ったり、「段ボール入り肉まん」を実際に作ったりして取り上げました。この為、捏造との発表については、「本当に捏造だったのか?」と、懐疑的なメディアもあるわけです。

それでも確かに「段ボール入り肉まん」の取材映像自体は、肉まんの製造現場を隠し撮り風に撮影しているのに、その後で犯人が色々とインタービューに応えて、調理の実演までしてしまっているという様な不自然さが指摘されているので、少なくとも「ヤラセ」ではあった様です。おそらく、元々は北京ローカルの実用的な製品安全情報番組だったものが扇情的なスクープを争う様になったという事なのでしょう。そして、一連の中国製品の品質問題と、オリンピック開催国という事で中国に注目している全世界に、そうしたスクープの一つが配信されてしまった事で、大騒ぎになったという事だと思います。


なので、「段ボール入り肉まん」そのものの真偽の判断は保留しますが、昨年社員旅行で行った観光地としての北京の姿とは違った、ジャンクな北京の下町の姿を、私はこの報道で垣間見た様な気がします。何故なら、それが事実であれ捏造であれ、そういう食品を作っている悪質業者か、そういう悪質なヤラセに応じる出稼ぎ労働者のどちらかが確実に居る事になるわけですから。オリンピック開催をきっかけにして、こうした部分が整備されていくわけで、現に私たちが行った時にも「大工事中の北京」である事自体も観光の売りになっていたわけです。それにしても、今頃こんな状態で、下町の整備がオリンピックに間に合うのだろうかと心配です。折角のオリンピックなのだから、地域全体に経済効果が波及する様にしないと勿体無いですから。

また、「段ボール入り肉まん」が捏造であれ真実であれ、こうしたスクープ報道の背景には日本のテレビ局と同じかそれ以上の「視聴率競争」があった事は確かです。その多くは北京の視聴者の期待に応えようとする良心と、真実を追究する使命感に基づいた競争なのでしょう。


さて、日本に目を転じれば、中越沖地震の影響で、新潟方面への夏の観光客のキャンセルが相次いでいて、新潟の観光産業が大打撃を受けているとの事です。自動車部品メーカーのリケンが大打撃を受けた事で、トヨタ生産方式を採用している日本の自動車メーカーの全てが大打撃を受けているのは、紛れも無く地震そのものの影響です。しかし、新潟の観光産業が大打撃を受けているのは、地震そのものよりも、災害報道の加熱、とりわけ、刈羽原発の変電所の火災と放射能漏れ事故についての報道の影響が大きいわけです。

勿論、事故のデータを過少申告したり、この規模の地震を想定していなかったりした原発側にも問題があるわけですが、これらの事を「第2のチェルノブイリ」とまで非難した一部のメディア側の責任も大きい筈です。 「放射能漏れ」とは言っても、人体に被害が出る水準より遥かに低い汚染で済みましたし、地震の規模についても、想定から更に余裕を付けて設備を設計していたわけですから、むしろ、中越沖地震が原発の安全性を証明したという見方もできるわけです。チェルノブイリの大惨事に喩える事は不適切でしょう。

しかし、現実に新潟全県に渡って「放射能汚染」のイメージが浸透してしまって、観光産業が大打撃を被っているわけです。新潟の地域経済が打撃を受ければ、リケンで働く人も影響を受けるわけで、ひいては日本の自動車産業や日本経済全体への打撃に繋がります。

確かに刈羽原発の不味い対応は無責任ですが、それを糾弾するポーズでその実「放射能汚染」への不安を煽る事もまた無責任であり、「段ボール入り肉まん」のケースと同様の「視聴率主義」と言わなければなりません。私は報道の信頼性を高める為には公権力による統制ではなく、報道の自由の枠組みの中で各メディアが競争する事が必要だと考えていますが、その為には「煽情性」よりも「実用性」が視聴率に繋がる仕組みを作る必要があるでしょう。

その為には、視聴者である我々のメディア・リテラシーを高める事も大事ですが、それに留まらず、報道や情報が自分の役に立つものかどうかを冷静に判断する力も必要です。例えば新潟県への観光を予定していた人にとって必要なのは、原発が糾弾される事よりも、各観光地や交通網の詳しい状態、そして余震がいつまで続くかの見通しだった筈です。メディアが伝えているのは劇場ではなくて、紛れもなく現実なのですから、こういう実用面でのバランス感覚を持ったメディアが評価される仕組み、もしくは視聴者自身が容易に複数のメディアを比較してバランスを取る事ができる仕組みが必要なのです。

さて、福井県の様子ですが、今回の地震の被害は全く出ていませんので、観光を予定している人はキャンセルしないで下さいね。
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